企業の強みはどう見つける?「なぜ?」を重ねてブランドの価値を掘り出す
「なぜ?」を3回重ねると、見えてくるものがある。
ラジオレポーターをしていた頃、先輩から教わったことがあります。
「“なぜ?”を3回重ねなさい」そして、「5歳児みたいな、なぜなぜ星人になりなさい」と。
当時は、取材をするときの基本として教わったことでした。目の前にあるものを、そのまま紹介するだけではなく、なぜ、ここにあるのか。なぜ、この形なのか。なぜ、この人は続けているのか。もう一歩、奥まで聞いてみる。
そうすると、最初に聞いた話とはまったく違う景色が見えてくることがある。
あれからずいぶん時間が経ち、今は企業や地域のブランドづくりに関わっています。でも振り返ってみると、やっていることはあまり変わっていません。
今も私は、「それって、なぜなんですか?」と聞いています。
最初の答えは、だいたい「事実」
レポーター時代、地域の生産者さんや職人さんのところへ取材に行く機会がたくさんありました。
たとえば、「この地域では、昔からこれをつくっているんです」と教えてもらう。「そうなんですね」で終われば、それはひとつの情報です。
でも、そこで聞いてみる。なぜ、この地域でつくられているんですか?
すると、「この土地の気候が合っているから」という答えが返ってくるかもしれない。
そこで、もう一度。なぜ、この気候だとつくりやすいんですか?
今度は、素材の話になる。昔の暮らしの話になる。地域の産業の話になる。家族の話になることもある。
最初は、「この地域では、昔からこれをつくっています」という事実だったものが、「なぜ、この土地にこの文化が生まれたのか」という話へ変わっていく。
私は取材を始めたばかりの頃、それが面白くて仕方ありませんでした。
「普通ですよ」の奥に、面白いものがある
取材をしていて、もうひとつよくあったことがあります。
こちらが、「それ、すごく面白いですね」と言うと、「そうですか? 普通ですよ」と返される。その人にとっては、毎日やっていることだからです。
昔からその土地にあるもの。何十年も続けている工程。当たり前に使っている道具。地域では普通に食べられているもの。そこにいる人にとっては、わざわざ誰かに話すようなことではありません。でも、外から来た私には面白い。
だから、「なんで、こうするんですか?」と聞く。
すると、「昔からこうだから」と返ってくる。
そこで、もう一回。「なんで、昔からこうなんでしょう?」かなり面倒くさい人です。完全に、なぜなぜ星人です。
でも、そのもう一回から出てくる話に、その土地や人にしかないものが隠れていることがあります。
ブランドの仕事でも、やっていることはあまり変わらない
今はレポーターではなく、企業や地域のブランディングに関わっています。でも、打ち合わせをしていると、あの頃と同じような場面によく出会います。
「この工程だけは、昔から手作業なんです」
なぜ?
「この材料は、ずっと同じところから仕入れています」
なぜ?
「最後は必ず社長が確認します」
なぜ?
「この商品だけは、ずっとつくり続けています」
なぜ?
最初は単なる「会社の特徴」だったものを掘っていく。
すると、その奥から、品質への考え方。お客さんとの向き合い方。ものづくりへの姿勢。地域との関係。その会社が長い時間をかけてつくってきた判断基準。
そんなものが見えてくることがあります。
たとえば、「最後の工程は、今も手作業です」だけなら、ひとつの特徴です。
でも、なぜ、この会社は手作業を続けているのか。まで聞いてみる。
「機械では分からない微妙な違いがあるから」という答えが返ってくるかもしれない。
では、なぜ、そこまで確認する必要があるんですか?と、もう一度聞いてみる。
すると、「自分たちが納得できないものは、お客さんに出したくないから」という話が出てくるかもしれない。ここまで来ると、話が変わります。「手作業」という特徴の奥に、その会社が品質をどう考えているのかが見えてくる。
私は、そこにブランドの材料があると思っています。
「なぜ?」を重ねると、事実が価値に変わっていく
ブランドづくりでは、「御社の強みは何ですか?」と聞くことがあります。
でも、この質問だけで答えを出そうとすると、「技術力です」「品質です」「丁寧な対応です」といった言葉になりやすい。
もちろん、それが間違っているわけではありません。
でも、
なぜ、技術を大切にしているのか。
なぜ、そこまで品質にこだわるのか。
なぜ、丁寧な対応を続けているのか。
まで聞いてみる。
すると、「強み」という言葉の奥に、その会社なりの理由が見えてきます。
たとえば、
事実
「最後の工程は手作業」
↓
理由
「機械だけでは判断できない違いがある」
↓
価値観
「自分たちが納得できないものは出さない」
ここまで来ると、単なる商品の説明ではなく、「この会社は、何を大切にして仕事をしているのか」が見えてきます。
「なぜ?」は、答えを深くするためだけの質問ではありません。
事実の奥にある価値を見つけるための質問
なのだと思います。
3回聞けば、必ず答えが出るわけではない
ちなみに、「なぜ?を3回」と言っても、本当にすべての質問をきっちり3回繰り返せばいいわけではありません。
1回で見えることもある。5回聞いても分からないこともある。大切なのは回数ではなく、
最初の答えだけで分かったつもりにならないこと。
だと思っています。
「昔からこうだから」「業界では普通だから」「特に理由はないですよ」
そんな答えが返ってきたときに、「そうなんですね」で終わらず、もう少しだけ立ち止まってみる。
「いつ頃からそうなんですか?」「変えようと思ったことはないんですか?」「もしやめたら、何が変わりますか?」「他の会社も同じなんでしょうか?」
問い方を少し変えるだけで、別の答えが出てくることがあります。
「なぜ?」は、人を問い詰めるためのものではありません。
本人もまだ言葉にしていないものを、一緒に探すためのもの。
私は、そんなふうに使っています。
「なぜ?」は、ストーリーをつくるためじゃない
以前、「ストーリーをつくる前に、何をするべきなのか。」という記事で、ストーリーをつくる前に、価値を見つける。と書きました。
では、その価値をどうやって見つけるのか。
改めて考えてみると、私の場合、その原点のひとつがレポーター時代に教わった「なぜを3回」なのだと思います。
大切なのは、感動的なエピソードを引き出すことではありません。「共感してもらえそうな話」を探すことでもない。
ただ、なぜ?と聞いてみる。答えが返ってきたら、もう一度聞いてみる。その答えにも、また問いを重ねてみる。
すると、最初は本人も意識していなかった理由にたどり着くことがあります。
それが結果として、その会社にしかないストーリーになることもある。でも、最初からストーリーを探していたわけではありません。
すでにそこにあるものを、見つけていった結果です。
「何もない」と言われたときほど、気になる
「うちには、特に強みなんてないんですよ」「昔からこうなので」「この地域では普通ですよ」そんな言葉を聞くと、ちょっと気になります。本当に何もないのかな、と。
会社の中にいる人にとって、10年続けてきたことは普通です。30年付き合ってきたお客さんも普通です。毎日やっている工程も普通です。その土地で生まれ育った人にとって、その地域の文化も普通です。
でも、
長い時間をかけて「普通」になったものほど、外から見ると簡単には真似できないものだったりする。
だから、もう一度聞いてみる。「それって、なぜなんですか?」そこから、本人たちにとっては当たり前すぎて、これまで言葉にしてこなかったものが出てくることがあります。
ブランドの材料は、最初の答えの「もう少し奥」にある
ブランドをつくろうとすると、新しいコンセプトを考えたくなります。新しい言葉をつくりたくなります。他社にはない強みを探したくなります。
でも、その前に、今あるものに「なぜ?」を重ねてみる。
なぜ、この仕事をしているのか。
なぜ、この商品をつくり続けているのか。
なぜ、このやり方を変えなかったのか。
なぜ、この人たちと仕事をしているのか。
なぜ、お客さんは自分たちを選んでくれているのか。
その答えの奥に、まだ本人たちも気づいていないブランドの材料があるかもしれません。
レポーター時代に教わった、「5歳児みたいな、なぜなぜ星人になりなさい」。
どうやら私は、今もずっと続けているみたいです。
「当たり前」の奥にある価値を、一緒に見つける。
tsumugiでは、企業や地域がこれまで積み重ねてきたものを紐解きながら、まだ言葉になっていない価値を見つけていきます。
新しい強みを外からつくるのではなく、「なぜ、これを続けてきたんだろう」「なぜ、ここだけは変えなかったんだろう」と、一緒に問い直してみる。
その先に見えてきたものから、
何を残し、何を変え、これから何をブランドの軸として育てていくのか
を考えます。
「うちには、特に強みなんてない」と思っている段階からでも大丈夫です。むしろ、そんなときほど聞いてみたいことがあります。
「それって、なぜなんですか?」