事業承継で経営理念をどう引き継ぐ?社長の想いを言語化するブランドづくり
「社長の頭の中にしか
ブランドの言葉は、掲げるためだけではなく、使うためにある。
ないブランド」は、危うい。
「うちの会社の強みですか? それは社長に聞かないと……」
もし社員からこんな言葉が出てきたら、少し気になりませんか?
中小企業では、創業者や経営者の考え方が、そのまま会社の個性になっていることがあります。
どんな仕事を引き受けるのか。どんなお客さんと付き合うのか。品質について、どこまでこだわるのか。一つひとつの判断に、社長の価値観が反映されている。それ自体は、決して悪いことではありません。
むしろ、長く続いてきた会社ほど、経営者が積み重ねてきた判断の中に、その会社ならではの価値があると思っています。
ただ、一つ気になることがあります。
その判断の理由を、社長以外の人も説明できるだろうか。
会社のブランドが、社長の頭の中だけにある。それは、会社にとって少し危うい状態なのかもしれません。
「社長に聞かないと分からない」が増えていく
例えば、ある取引先から新しい仕事の相談が来たとします。
売上にはつながりそう。でも、これまで会社が大切にしてきた仕事とは少し違う。
そんなとき、「社長だったら、どう判断するだろう?」と考える社員がいるかもしれません。もちろん、重要な判断を経営者に確認することは必要です。でも、あらゆる判断が社長に集中していたら、会社はなかなか前に進めません。
社長が忙しければ、決定が止まる。担当者が変われば、判断が変わる。新しく入った社員は、何を基準に仕事をすればいいのか分からない。社長がいなければ、会社の「らしさ」を判断できない。ここで問題なのは、社員の理解が足りないことではありません。
会社が大切にしている判断基準が、共有されていないこと。
会社の「らしさ」は、日々の判断に表れている
会社の歴史を聞いていると、「うちは昔から、そういう仕事は受けないんです」「利益が少なくても、この取引先とは付き合いを続けています」「そこだけは、絶対に手を抜きません」という話が出てくることがあります。
一見すると、昔からの慣習や、社長個人のこだわりに見えるかもしれません。でも、もう少し理由を聞いてみると、お客さんとの信頼を大切にしている。目先の利益より、長く続く関係を選んでいる。品質について、譲れない基準がある。
そんな、その会社ならではの考え方が見えてくることがあります。
ブランドの「らしさ」は、ロゴやデザインだけに表れるものではありません。
何を選び、何を選ばなかったのか。
その積み重ねにも表れています。だからこそ、ブランドを考えるときには、「この会社は何をしてきたのか」だけでなく、「なぜ、その判断をしてきたのか」を知ることが大切なのだと思います。
「うちらしさ」は、言葉にしないと引き継ぎにくい
長く一緒に働いている社員なら、社長の考え方をなんとなく理解しているかもしれません。「あの社長なら、こう言うだろうな」「こういう仕事は、きっと受けないだろうな」経験の中で、自然と身についていることもあります。
でも、それが言葉になっていなければ、新しく入った人には伝わりにくい。部署が変われば、解釈が変わることもあります。
そして、経営者が交代したとき、その判断基準まで一緒に引き継げるとは限りません。大切なのは、社長と同じ判断をする人を増やすことではありません。
社長が何を大切にして判断してきたのかを、みんなが理解できる状態にすること。
そこが分かれば、時代や状況が変わっても、その考え方をもとに新しい選択ができます。
つまり、ブランドを言語化することは、
社長個人の経験や価値観を、会社全体で使える資産に変えること。
でもあるのだと思います。
経営理念をつくるだけでは、ブランドは浸透しない
ここまで読むと、「では、経営理念をつくればいいんですね」と思うかもしれません。でも、私はそれだけでは足りないと思っています。
例えば、「お客様第一」という理念があったとします。
では、お客さんから無理な納期を求められたときは、どうするのでしょうか。
社員が残業すれば対応できる。でも、社員の働き方も大切にしたい。そんなとき、何を優先するのか。「お客様第一」という言葉だけでは、判断できないこともあります。
だからこそ、ブランドの言語化では、きれいな言葉をつくること以上に、
その言葉が、実際の仕事でどう使われるのか。まで考える必要があります。
どんな仕事を選ぶのか。何を大切にして、何をしないのか。迷ったときに、何を基準に判断するのか。そこまで共有できて初めて、理念は会社の中で機能し始めるのだと思います。
社長の考えを「みんなで使えるもの」にするには?
では、経営者の頭の中にある考え方を、どうすれば会社全体で共有できるのでしょうか。私たちは、まず次の3つを考えることが大切だと思っています。
01|これまでの判断を振り返る
最初から、「会社の理念は何ですか?」と聞いても、すぐに答えが出るとは限りません。
それよりも、
「なぜ、あの仕事を引き受けたのですか?」
「なぜ、その取引先との関係を続けているのですか?」
「なぜ、その工程だけは変えなかったのですか?」
そんな具体的な出来事から聞いてみる。
その答えの奥に、経営者が大切にしてきた価値観が見えてくることがあります。
02|経営者だけでなく、現場の声も聞く
社長が考えている会社の強みと、社員が感じている強みは、必ずしも同じではありません。
経営者は技術力を強みだと思っている。でも、現場の社員は、お客さんへの柔軟な対応に誇りを持っているかもしれない。
あるいは、お客さんは、そのどちらとも違うところに魅力を感じているかもしれません。
だから、社長の言葉だけでブランドを決めない。現場で働く人の声。お客さんとの関係。日々の仕事の中で起きていること。そうしたものも含めて見ていく。
ブランドの価値は、社長の頭の中だけにあるわけではないからです。
03|日々の判断に使える言葉にする
見つけた価値は、言葉にするだけでは十分ではありません。
例えば、「長く続く信頼関係を大切にする」という考え方が見えてきたなら、それは営業活動で、どんな判断につながるのか。商品開発では、何を優先するのか。採用では、どんな人と働きたいのか。顧客対応では、何を大切にするのか。そこまで考えてみる。
ブランドの言葉は、掲げるためだけではなく、使うためにある。
私たちは、そう考えています。
事業承継で引き継ぎたいのは、社長の「やり方」だけじゃない
特に、事業承継や第二創業期を迎える会社では、この問いが重要になると感じています。
創業者が長年の経験から判断してきたことを、次の経営者がすべて同じように判断できるとは限りません。
そして、同じように判断する必要もないと思います。
時代が変われば、お客さんも、働く人も、事業の環境も変わります。これまでのやり方を、そのまま続けることが正解とは限らない。
でも、何を大切にしてきたのかが分からなければ、変えるべきものと残すべきものの判断も難しくなります。
だから、事業を引き継ぐときには、「先代は何をしてきたのか」だけではなく、
「先代は、なぜそれを選んできたのか」を知ることが大切なのだと思います。
例えば、「昔から、この取引先だけは大切にしてきた」という事実があったとします。大切なのは、その取引先との関係を何があっても維持することなのか。
それとも、「目先の利益より、長く続く信頼を大切にする」という考え方を受け継ぐことなのか。
その違いによって、次の経営者が選ぶ行動は変わります。
先代のやり方をそのまま残すことと、先代の考え方を受け継ぐことは、同じではありません。
その理由を理解したうえで、今の時代に合った方法を考える。それが、会社の歴史を次につなぐことなのかもしれません。
ブランドは、社長の頭の中から外へ
ブランドづくりというと、ロゴやWebサイト、広告など、社外に向けた表現を思い浮かべることが多いかもしれません。でも、その前に考えたいことがあります。
会社の中にいる人たちは、自分たちが何を大切にしている会社なのかを知っているだろうか。
社長の想いから始まったブランドでも、社長だけが理解しているうちは、会社全体のものにはなっていません。
社員が迷ったときに立ち返れる。新しい人が入ってきても、大切にしていることが伝わる。社長がいなくても、日々の判断にその考え方が生きている。もちろん、すべての社員が同じ答えを出す必要はありません。
でも、判断するときに立ち返れる共通の考え方があることは、会社にとって大きな力になるはずです。
ブランドを言葉にするのは、社長の想いを飾るためではなく、みんなで使えるものにするため。
会社がこれまで積み重ねてきた価値を、社長の頭の中だけに置いておくのは、少しもったいない。
次の世代へ。そして、一緒に働く人たちへ。その価値を引き継いでいくことも、ブランドづくりの大切な役割だと思っています。
社長の頭の中にある価値を、会社の資産へ。
tsumugiのFINDでは、経営者や現場で働く方々へのヒアリングを通じて、企業がこれまで積み重ねてきた価値を紐解いていきます。
歴史。技術。商品。お客さんとの関係。そして、これまで繰り返してきた判断の理由。
そうしたものの中から、まだ言葉になっていない価値を見つけ、「何を残し、何を変え、これから何を大切にしていくのか」を一緒に考えます。
「会社の強みを、社員にうまく説明できない」「経営理念はあるけれど、日々の仕事につながっていない」「事業承継を前に、何を引き継ぐべきか整理したい」
そんな段階からでも大丈夫です。
まずは、社長の頭の中にある想いや判断の理由を、一緒に紐解いてみませんか。